大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)1281号 判決 1971年2月26日
原告
前田善正
ほか一名
被告
南海電気鉄道株式会社
主文
一、被告は、原告前田善正に対し、金六九五、二五九円および内金六三五、二五九円に対する昭和四三年九月二七日以降、原告前田コシゲに対し、金三四七、九二九円および内金二一七、六二九円に対する昭和四三年九月二七日以降、各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告らのその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用はこれを五分し、その一を被告の、その余を原告らの負担とする
四、この判決第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一、請求の趣旨
一、被告は原告前田善正に対し金三、五一四、二〇六円および内金三、三八〇、八七四円に対する昭和四三年九月二七日以降、原告前田コシゲに対し金一、七五七、一〇三円および内金一、六九〇、四三七円に対する昭和四三年九月二七日以降、各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言を求める。
第二、請求の趣旨に対する答弁
一、原告らの請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決を求める。
第三、請求の原因
一、事故発生
(一) 発生時 昭和四二年五月二五日午前一〇時一〇分頃
(二) 発生地 大阪市阿倍野区北畠東一丁目四三番地
(三) 事故車 南海電車上町線、天王寺駅前発住吉公園行の車両番号第五〇一号客車(以下事故電車という)
運転者 訴外小塩三郎
(四) 被害者 前田徳一(当時八一才)
(五) 態様 事故現場は中央に幅員九メートルの路面電車の軌道敷がありその両側に歩車道の区別のない道路のある路上で、亡前田徳一(以下亡徳一という)は、東から西へ歩行中、軌道敷内で立ち停つたところ、北から南へ進行してきた訴外小塩運転の電車に跳ねられたもの。
(六) 受傷 亡徳一は、本件事故により、右大腿骨頸部骨折、右鎖骨骨折、右第二、三、四肋骨々折、右第五中手骨骨折、右手背および手掌挫創、頭部外傷Ⅰ型の傷害を受け、事故直後より昭和四三年七月三一日まで入院して治療を受け、退院後も自宅療養を続けたが、同年九月二七日、右大腿骨骨折後遺症を原因とする心衰弱のため死亡した。
二、責任原因
(一) 被告は、訴外小塩三郎を路面電車の運転手として使用し、同訴外人が被告会社電車の運転業務に従事中、次のような過失によつて本件事故を発生させたものであるから、民法第七一五条第一項により、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。
(二) 本件事故現場道路は、一般道路の中央部を軌道敷とする併用軌道で、軌道敷以外は人、車道の区別のない市街地の交通量の頻繁な道路であり、また、軌道は北から南へほぼ直線の専用軌道が事故現場直前で併用軌道に変り、その付近でやや右(南南西)へ彎曲するけれども、見通しの良く視界の極めて良好な軌道であるが、事故電車の運転者である訴外小塩は、専用軌道を進行する場合と異つて、人、車等の往来する併用軌道を進行するにあたつては、特に前方をよく注視し、進路軌道内の障害物の早期発見に努め、もし軌道敷付近に佇立ないし歩行している人を発見したならば、直ちに警笛を吹鳴すると共にいつでも停車できるよう減速除行して進行する義務があるところ、これを怠り、事故現場軌道敷付近に佇立している亡徳一を前方約四二・七メートルの地点に至るまで気付かなかつたもので、しかも、亡徳一は事故電車の接近に気付く様子もなく電車に背を向けて佇立していたのに、何らこれに対処する措置を講じなかつたもので、訴外小塩に運転上の過失のあることが明らかである。
三、損害
(一) 療養費
1 入院治療費 金五五二、一七〇円
2 付添費 金六二五、七三〇円
以上いずれも亡徳一の治療に必要な費用であつた。
(二) 亡徳一の逸失利益
1 稼働不能による損害 金三九九、九九九円
(事故時)八一才
(推定余命)四・三八年(昭和四〇年簡易生命表による)
(稼働可能年数)四年
(収益)亡徳一は古書籍売買業の手伝いに従事し月収金一〇、〇〇〇円を得ていた。
(年五分の中間利息控除)ホフマン式計算による。
10,000×48×0.8333=399,999
2 恩給受給権の喪失
亡徳一は、永年小学校教員を勤めていたため、大阪府より年額金二二六、三三六円の恩給を受給していた。しかして、前記のとおり、亡徳一の平均推定余命は四・三八年(そのホフマン係数は四・三六四)であるから、その期間恩給を受給しうるので、年五分の中間利息を控除して得べかりし利益の現価を算定すれば、金九八六、八二四円となる。
226,336×4.364=986,824
なお、亡徳一の死亡により、同人の配偶者であつた原告コシゲは、恩給受給額の一〇分の五にあたる扶助料受給権を取得したので、後記の原告らの相続に関しては、扶助料額を差し引くことになり、従つて恩給に関する逸失利益額は金四九三、四一二円となる。
(三) 慰藉料
亡徳一は、本件事故により、右大腿骨骨折後遺症のため、下肢歩行に著しい障害を残して、何事についても他人の介添を必要とする状態となつていたが、ついに心衰弱を誘発して死亡するに至つたものである。従つて、その受けた肉体的精神的苦痛は甚大で、これを慰藉する額は金三、〇〇〇、〇〇〇円を下らない。
(四) 以上によれば、亡徳一は、合計金五、〇七一、三一一円の損害賠償請求権を有するところ、原告善正は亡徳一の直系卑属、原告コシゲは配偶者であるから、原告善正においてその三分の二、同コシゲにおいてその三分の一をそれぞれ相続により取得した。
(五) 弁護士費用
原告善正 金一三三、三三二円
原告コシゲ 金六六、六六六円
四、よつて、被告に対し、原告善正は金三、五一四、二〇六円および弁護士費用を除いた内金三、三八〇、八七四円につき亡徳一死亡日である昭和四三年九月二七日以降、原告コシゲは金一、六九〇、四三七円および右同様の内金に対する右同日以降、各完済まで年五分の割合による金員の支払いを求める。
第四、請求原因に対する答弁および主張
一、請求原因一のうち(一)ないし(四)の事実を認め、(五)の事故態様の内容を争い、(六)の事実は不知、同二のうち訴外小塩に過失があつたとの点を除きその余の事実を認める。同三の事実は全部不知。
二、訴外小塩の無過失
本件事故電車の運転手訴外小塩は、時速約三八キロメートル(制限時速四〇キロメートル)で東天下茶屋駅から北畠駅へ向け北から南へ進行中、事故現場の手前約四〇メートルの地点で、事故電車の軌道左側レールから約二・二メートルの地点、即ち、軌道敷の耳石左端から約一・五メートルの地点で、舗装道路上の安全な場所に、南向き(電車の進行と同じ方向)に佇立していた被害者を発見したが、事故電車が事故発生地点より約二五メートル手前にさしかかつた時、被害者が何を思つたか、突然、軌道敷内に接近しようとする気配を示したので、直ちに急停車の措置をとると共に連続短急警笛を吹鳴して注意を喚起したが、被害者において電車に全く注意を払わずそのまま斜に線路上に進入したため、被害者を避けえず、惰力進行中の事故電車前面左角付近に被害者を接触、転倒させたものである。このように、本件事故は、被害者亡徳一が接近する事故電車に全く配慮せず、接近する事故電車の直前で軌道敷内に近寄るという歩行者としての無暴な行為によつて発生したものであつて、訴外小塩には何らの過失もなく、従つて、被告会社も責任を負わないことになる。
第五、証拠関係〔略〕
理由
第一、請求原因一の(一)ないし(四)の各事実は当事者間に争いがない。
第二、事故態様、過失
一、〔証拠略〕を綜合すれば、
1 本件事故現場は、天王寺と住吉公園と結ぶ被告会社上町線東天下茶屋駅、北畠駅間の北畠駅から北方約一三〇メートルの場所で、事故現場の北方約九・一メートルの地点より以北が専用軌道、同地点より以南が併用軌道となつており、併用軌道は、幅員一二メートルの南北通路のうち中央やや西側に六・四メートルの軌道敷が敷かれた部分で、軌道敷内は、上、下二・六メートルの軌道がありその各軌条間の幅が一・五メートル、軌道と軌道との間隔が一・八メートル、軌道の各両端(東端、西端)と車道との間が〇・八メートルで、それぞれ敷石が敷かれていること、右軌道敷の東側は北北東側より通ずる幅員四メートルの、また西側は前記併用軌道となつた地点を起点として一・六メートルの、それぞれ人、車道の区別のないコンクリート舗装された交通量のやや頻繁な道路であること、また、事故現場へ至る専用軌道は北から南へほぼ直線で、併用軌道に変る付近からやや右(南南西)へ彎曲しているけれども、北方より事故現場への見通しは良好であること、
2 訴外小塩は、事故電車を運転して東天下茶屋駅から北畠駅へ向け時速約三八キロメートルで専用軌道を南進し、事故現場の手前約五七メートルの地点が標識により警笛吹鳴場所となつていたので長短警笛を吹鳴してそのまま一五メートル進行した際、前方約四二メートル付近の併用軌道道路上の、軌条東端から二・二メートル、軌道敷の耳石端、(東端)から一・五メートルの地点に被害者が佇立しているのを認めたが、同人が佇立したままでいるものと考え、更に約一五メートル進行したところ、被害者が事故電車の進行方向と同一方向(南)に向いたまま軌動敷内に向け西方へ歩き出したのを認め、急停車の措置をとると共に短急警笛を連続吹嶋させたが、約二五メートル進行した地点で電車左前部を被害者に接触させて東南の方向に一・六メートル跳ねとばして転倒させ、接触地点から約二五メートル進行して停止したこと、
3 事故電車の車体の重量は一八トンで、定員は九〇人であり、本件事故当時乗客は定員には満たない程度であつたこと、事故電車の制動距離は通常の状態ならば、時速三八キロメートルで五一メートル、三五キロメートルで四五メートル、二五キロメートルで二三メートルであること、
4 亡徳一は、テレビの修理を依頼するため、自宅を出て、東天下茶屋駅前付近から前記本件事故現場へ北北東より南へ通ずる幅員約四メートルの道路を歩行して南進し、北畠駅の一つ先(南)の姫松駅の東側にある木村電気店へ向う途中、後方から電車に衝突されたもので電車の接近に全く気づかず、その他事故前後の行動や状況をはつきり記憶していないこと、同人は事故当時満八一才ではあつたが健康で耳も普通に聞えていたこと、事故当時、左手に竹の杖を右手に果物を持つて歩行していたものであること、
がそれぞれ認められ、右認定に反する〔証拠略〕は措信できず、乙第一号証によるも右認定を覆えすに足りず、他に右認定を左右する証拠はない。
二、ところで、併用軌道を走行する路面電車の運転手は、専用軌道を走行する電車を運転する場合と異り、軌道敷上を車両、歩行者等が通行することが容易に可能であり(但し車両の通行については道路交通法第二一条の制限があるが)また、自動車を運転する場合と異りみずから進路を変えて障害物を避譲することも不能であり、かつ、前記のとおり電車の制動距離が相当長いのであるから、特に前方の安全を十分確認する義務があり、前方をよく注視して歩行者その他の障害物の早期発見に努め、障害物の存在を発見し又は障害物の出現が予想される場合には、あらかじめ警笛を吹鳴して注意を喚起し避譲を促すと共に、それのみでは足りず、何時でも制動措置をとつて減速し、障害物の直前で停止して、もつて事故の発生を未然に防止する義務があるものというべきである。もつとも、このように電車の運転手に障害物の早期発見とその都度の減速、停止を要求すれば、電車の運転者に難きを強いることになり、或は電車の交通機関としての機能を喪失することになるとの批判も考えられなくもないが、電車の運転手には、自動車運転者が運転資格を取得する場合以上に、限られた者に特殊な訓練と技能を習得させて運転資格を付与している(動力車操縦者運転免許に関する省令参照)ことからみて、自動車運転者に比して高度の注意義務が課せられたとしても必ずしも不合理、不公平とはいえず、(但し立法論としては、市街地の路面電車と歩行者との衡突事故の場合は、自動車による事故の場合とその態様が変らないので、自賠法第三条と同様の立法がなされることが望ましい)また、市街地の道路の安全と事故防止のためには、路面電車の高速性が失われる事態の生ずることは避けられないところであり、現に、自動車交通量の激増と人口の都市集中化に伴い都市の路面電車が高速交通機関としての機能を失い除々に廃止されつつあることが公知である。
三、これを本件についてみるに、前記認定の事実によれば事故現場へ至る専用軌道は北から南へほぼ直線で事故現場付近の見通しはかなり以前より良好であり、事故現場付近が専用軌道から併用軌道に変る人、車など交通量の多い場所でもあり、更には電車の制動距離が長い(時速三八キロメートルの場合は五一メートル)のであるから、事故電車の運転手である訴外小塩は、事故現場付近の状況を特に注視して併用軌道上付近の人その他の障害物の早期発見につとめると共に、併用軌道上付近で歩行者等の障害物の存在その他異常な状態があつてもその直前で停止しうるよう制動距離に見合う速度をもつて進行する義務があつたものというべきところ、本件事故現場付近で佇立している被害者を左前方約四二メートルの地点に至つてはじめて認めたというのであつて、被害者が事故現場へ通ずる道路を南進歩行して本件事故現場に至つている前記認定の事実に徴すると、訴外小塩において被害者が佇立している状態ないしそれ以前の動静を、四二メートルの距離に接近する以前に発見しえたしまた発見すべきであつたものというべきで、従つて、まずこの点において、訴外小塩が前方に対する十分な注視を欠いた過失があつたものと推認せざるを得ず、また、併用軌道となる地点付近に障害物の発現することを慮い、その地点でも停止しうるよう減速して進行すべきであつたのに、約五七メートル手前の警笛吹鳴指定場所で警笛を吹鳴させたのみで、時速三八キロメートルで進行し、その後も同一速度で運転を継続していたというのであるから、減速する義務を怠つた過失があつたものと認めざるをえない。更に、訴外小塩は、四二メートルの手前で佇立している被害者を認めながら同人が佇立したままでいるものと軽信して警笛を鳴らしたのみで従前と同一速度で運転を継続しているのであるが、被害者を発見した時点で直ちに急制動の措置をとつたとすれば、制動距離の関係で、その後軌道敷内に近寄つた被害者との接触は避けられなかつたとしても、接触の度合い、程度はその後約一五メートル進行した後に急制動の措置をとつた本件に較べて軽く済み、被害の程度も軽微に終えたものと推認され、この点からも、後記のように電車の接近にも拘らず軌道敷内に近寄つた亡徳一の過失のあることは別として、訴外小塩の運転方法が適切でなかつたものと断ぜざるを得ない。
四、地方、前記認定の事実によれば、亡徳一は、本件事故現場付近を南方に向け歩行していた際、路面電車の軌道敷に近づいていたのであるが、南進する路面電車の接近することは当然予想しうるところであるので、軌道敷内に立入り或は通行の際には、左右の安全をよく確かめ、接近する電車の有無を確認する義務があるものというべきところ、亡徳一において、安全の確認をしなかつたのみか、約二五メートル北方(後方)より短急警笛を連続吹鳴して来る事故電車に気づかず軌道敷に近寄つたのであるから、亡徳一にも重大な過失があり、これが本件事故発生の主たる原因であると考えざるを得ない。このように、本件事故は、訴外小塩と亡徳一との双方の過失が競合して発生したものと認められ、その過失の割合は、前記認定の事実を綜合して、前者を二、後者を八とするを相当と認める。
第三、〔証拠略〕によれば、請求原因一の(六)の事実(亡徳一の受傷の程度、内容ならびに死亡の事実)が認められ、これに反する証拠はない。
第四、訴外小塩三郎に運転上の過失があつたとの点を除き請求原因二項の(一)の事実は当事者間に争いがなく、同訴外人に過失の存したことは前記第二認定のとおりであるからそうならば、被告は訴外小塩の使用者として、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。
第五、損害
一、亡徳一の療養費
(一) 入院費、治療費
1 入院時より昭和四二年八月二九日まで
金二一六、六九三円(〔証拠略〕)
2 同月三〇日より同年一一月一九日まで
金一二四、七二二円(〔証拠略〕)
3 同年一二月一一日より昭和四三年七月三一日まで
金一九七、三五六円(〔証拠略〕)
(二) 付添費
1 入院時より昭和四二年一一月一九日まで
金一六九、一三〇円(〔証拠略〕)
2 同年一一月二〇日より昭和四三年七月三一日まで
金三八一、四八〇円(〔証拠略〕)
二、亡徳一の逸失利益
(一) 死亡前の逸失利益
〔証拠略〕によれば、亡徳一は、事故当事、養子である善正と共同で書藉販売業を営み、亡徳一自身の純収入は控え目に見積つて、原告主張の毎月金一〇、〇〇〇円程度であつたこと、本件事故後、受傷のため全く稼働できず、事故当日より死亡時まで一六ケ月間稼働できず、その間収入を得られなかつた事実が認められ、右認定に反する措信すべき証拠はない。これによれば、亡徳一の休業損害は金一六〇、〇〇〇円と算定される。
(二) 死亡後の逸失利益
本件記録添付の戸籍謄本によれば、亡徳一は、明治一九年四月一日生れで、死亡時満八二歳であつたことが認められ、満八二才の男性の平均余命年数は第一一回生命表によれば、四・三八年であることが明らかであり、これと前記亡徳一の職業を考え合せると、稼働可能年数は死亡時より二年と認めるを相当し、収入は月収金一〇、〇〇〇円、控除すべき生活費は五〇パーセントとして、以上により亡徳一の得べかりし利益の現価をホフマン複式年別計算により算定(係数は一・八六一五)すれば、金一一一、六九〇円となる。
10,000×1/2×12×1.8615=111,690
(三) 恩給受給権の喪失
〔証拠略〕によれば、亡徳一は永年小学校教員を勤めていたため、大阪府より年額金二二六、三三六円の恩給を受給していたことが認められ、これに反する証拠はない。しかして、前記のとおり亡徳一の場合、平均余命は四・三八年であるから、控え目に見積つて死亡時より四年間はなお恩給を取得しえたものと認めるを相当とし、前同様の方法で恩給額の現価を算定(ホフマン係数は三・五六四四)すれば、金八〇六、七五二円(円未満切捨)となる。
226,336×3.5644=806,752.23
そして、亡徳一の配偶者であつた原告コシゲが恩給受給額の半額を扶助料として受領することは原告らにおいて自認しているところであるから、このような場合、相続しうる恩給受給額は支給される扶助料を差引いた残額となるものと解するを相当とする(最高裁昭四一、四、七、民集二〇、四、四九九)ので、得べかりし恩給受給額は金四〇三、三七六円となる。
三、亡徳一の慰藉料
前記認定のような亡徳一の受傷の部位、程度、入、通院期間、後遺症の内容、心衰弱死を誘発したこと、および被告が、亡徳一に過失のあつたことを奇貨として、訴外小塩に運転上の過失のないことを強調するのみで、亡徳一に何の慰藉の方法も講じていなかつたこと、その他本件に顕れた一切の事情を考慮して、慰藉料を金三、〇〇〇、〇〇〇円とするを相当と認める。
四、過失相殺と相続
以上によれば、亡徳一の取得した賠償請求金額は合計金四、七六四、四四七円となるところ、前記過失割合(原告側八、被告側二)により被告に求めうる賠償額は、九三二、八八九円と算定される。しかして、前掲戸籍謄本および〔証拠略〕によれば、原告善正は亡徳一の子、原告コシゲは妻で、相続人の全部である事実が認められ、これに反する証拠はないので、そうならば、原告善正は三分の二の、原告コシゲは三分の一の、各相続分に従つて亡徳一の権利を取得したものと認められる(原告善正につき金六三五、二五九円、原告コシゲにつき金三一七、六二九円)。
五、弁護士費用
本件事故と相当因果関係のある損害として被告に賠償を求めめうる弁護士費用は、本件事案の内容、認容額等を考慮して、原告善正につき金六〇、〇〇〇円、原告コシゲにつき金三〇、〇〇〇円とするを相当と認める。
第六、以上によれば、被告は、民法第七一五条第一項により、原告善正に対し金六九五、二五九円および弁護士費用を除いた内金六三五、二五九円に対する不法行為の日の後であり亡徳一の死亡の日である昭和四二年九月二七日以降、原告コシゲに対し金三四七、六二九円および前同様の内金三一七、六二九円に対する前同日以降、各完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務あること明らかであるから、右の限度で原告らの本訴請求を正当として認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉崎直弥)